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惑星の気象学


水のある惑星大気の循環

気象衛星「ひまわり」で見た地球大気循環の特徴のうち, 「3. そこそこ晴れている」は, 対流にともなう上昇流によって水蒸気が凝結し, 雲と降水が発生することが主な原因である.

図6: 水蒸気を含む空気の上昇と下降の様子. 上昇空気塊の温度を赤線, 下降空気塊の温度を青線で示す. T-T' < T-T0' より, 乾燥した下降流は湿った上昇流を抑制する方向に働く.
図7: 積雲対流にともなう上昇流と下降流の模式図. 乾燥した下降流によって対流が抑制されないよう, 狭い上昇流と広い下降流を持つ必要がある.
 

大気が上昇・下降運動を起こす場合, 大気の温度勾配はある一定の値をとることが知られている. 地球のように大気中に水が存在する場合, 上昇するときと下降するときで空気の温度勾配が異なる. 乾燥空気が断熱的に上昇する際の空気の温度は 10 K/km の割合で高度とともに減少するのに対し, 湿った空気が上昇する場合は空気の温度は 5 K/km の割合で高度とともに減少する. このような上昇・下降時の温度構造の非対称は, 空気が上昇する際に生じる水蒸気の凝結熱によって生じる.

乾燥した下降流は対流にともなう上昇流を抑制する方向に働く. 図 6 にその様子を示した. 大気の鉛直温度分布が黒い実線のように表される場合の空気塊の上昇・下降を考える. 水蒸気の凝結をともなう湿った上昇空気塊の温度は赤線, 乾燥した下降空気塊の温度は青線のようになる. 破線で示した高度で上昇空気塊の温度 (T) と下降空気塊の温度 (T'), 周囲の空気塊の温度 (T0') を比べると, 乾燥した下降空気があると上昇空気塊の受ける浮力 (空気塊の温度差に比例) は小さくなることがわかる.

乾燥した下降流に負けることなく湿った上昇流を維持するためには, 下降流の領域を広くとって上昇空気塊の持つ浮力を稼ぐ必要がある (図 7 ). これより雲のある場所の面積よりも雲のない場所の面積の方が広い, すなわち晴れ間が多いことがわかる. 実際の地球では対流にともなう積雲以外の雲 (高層雲など) もあるため, 全球で平均すると雲のある場所と雲のない場所の面積は同程度 (雲量 5) になる.

  • ここでの議論の詳しい解説は, 浅井 富雄 著「大気対流の科学」(東京堂出版) にある.

  • 中島 健介 他 (1998) はコンピュータを用いた数値シミュレーションによって, 水蒸気の凝結をともなう積雲対流の上昇・下降の非対称は降水の存在が本質であることを示している.


最終更新日: 2002/09/04 小高 正嗣 (odakker@gfd-dennou.org)
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