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惑星の気象学


自転のない惑星大気の循環: 4 日循環

図16: 昼夜間対流の模式図. 大気は昼側で上昇し, 夜側で下降する.
 
図17: ハドレー循環と水平乱流粘性による東西風運動量の輸送. 角運動量保存的なハドレー循環に水平乱流粘性を加えることによって 4 日循環を作る. (松田 (2000) 図3.15 に加筆).
 
図18: ガリレオによって撮影された金星の雲画像. 2.3 μm の赤外波長で撮影. 高度 50-55 km 付近の雲に対応する [ NASA 惑星画像ホームページより取得].
 

惑星の自転よりも速い金星大気の東西風 (4 日循環) の存在は, 他の太陽系の惑星には見られない特徴である. 地球の場合, 平均的な偏西風の風速 30 m/sec は赤道での自転速度は 460 m/sec にくらべ小さい. 火星や木星, 土星の場合も同様である. 放っておくと地面との摩擦などによって東西風は次第に減速されるはずである. 観測事実を説明するためには東西風を維持するなんらかの仕組みが必要である.

4 日循環が自転のない惑星大気の特徴として生じたのか, それとも金星固有の事情によって生じたのかはよくわかっていない. これまでに以下のような節が提案されているが, いずれも決定的なものではない.

  • 昼夜間対流 (図16):
    自転速度が遅いため, 金星の昼側と夜側には大きな温度差が生じると考えられる. この昼夜の温度差によって駆動される昼夜間対流に注目し, 対流の循環セルを傾けることにより 4 日循環を作る.

    最近の研究によれば, 3 次元大気では昼夜間対流の循環セルを傾けて 4 日循環を作ることは難しいことが明らかになってきている.

  • 大気中の波動:
    大気波動による運動量輸送によって 4 日循環を作る. 主要な波は潮汐波と重力波である.

  • ハドレー循環と水平乱流粘性 (図17):
    自転速度が遅いため, ハドレー循環は極付近まで達すると予想される. このハドレー循環によって極向きに輸送された角運動量を, 水平乱流粘性によって赤道に引き戻すことで 4 日循環を作る.

近年の観測から, 高度 70 km 付近の可視で見える雲層と, それより下にある赤外線で見える雲層の模様が異なることがわかってきた (図18). これをヒントにいろいろな波長のカメラを搭載した探査衛星によって, 金星の雲の運動の様子を明らかにすることを目指す 金星大気探査計画 が, 宇宙科学研究所を中心に推進されている. この探査によって得られると期待される複数の高度における雲の運動の様子から, 金星大気の 4 日循環を理解する手がかりが得られるかもしれない.



最終更新日: 2002/09/10 小高 正嗣 (odakker@gfd-dennou.org)
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