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惑星の気象学


金星: 自転のない暴走温室の大気

図14: ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された 1995 年 1 月 24 日の金星. 紫外線による撮像 [ NASA 惑星画像ホームページより取得].
 
図15: ガリレオによって撮影された金星雲頂の画像. 近赤外波長で撮影した画像に着色処理をしている [ NASA 惑星画像ホームページより取得].
 

金星は厚い CO2大気と硫酸の雲に覆われた惑星である. 地表気圧は 90 気圧を超え, 大気と雲の温室効果によって地表気温は 750 K に達する. 大気中に液体の水は存在しない. 惑星の自転周期 (243 日) は公転周期 (224 日) にほぼ等しい. よって大気運動に対する自転の影響はほとんどないと考えてよい.

金星大気の特徴は以下の 3 つである.

  1. 水はほとんど存在しない:
    金星は地球と質量, 大きさ, 軌道半径がほぼ同じであるため, 惑星の材料物質はほぼ同じと考えられている. しかし金星には水がほとんど存在しない. これは太陽定数が地球に比べ大きいために温室効果が地球よりも強く働き, かつて存在した海が干上がってしまったためと考えられている.

    蒸発した水は紫外線によって分解され, 最終的には大気外へと散逸したと考えられている. 海がなくなってしまうと, 火山活動などで放出された CO2 を再び岩石として惑星内部に取り込む メカニズムが働かなくなる. 90 気圧に達する CO2 大気は海の蒸発と関係している.

  2. 地面が見えない:
    高度 50 - 70 km 付近に分布する硫酸の雲に遮られるため, 地表面を可視光で見ることはできない. 地球の水雲とは異なり, 金星の硫酸の雲は大気の循環ではなく紫外線による光化学反応によって作られる. 地球大気のオゾン層のようなものと考えるとよい. 対流性の雲ではないので, 雲のある場所とない場所をつくる理由はない.

  3. 雲層高度での高速東西風:
    可視, または紫外線で観測される雲の動きを追跡すると, 雲層高度における赤道付近の東西風は 4 日で一周 することがわかる. この大気の流れは 4 日循環と呼ばれている. 雲頂付近の東西風の風速はおよそ 100 m/sec で, 惑星の自転速度 (赤道付近で 1.5 m/sec) にくらべとても大きい. 惑星の自転よりも速い東西風の存在は, 他の太陽系の惑星には見られない.



最終更新日: 2002/09/04 小高 正嗣 (odakker@gfd-dennou.org)
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